大腸カメラで異常なしでも下痢が続く方へ ― 慢性の下痢と、大腸カメラ(大腸内視鏡)で見た目に異常がないときに考える病気 ―
コラム
「下痢が何週間も、あるいは何か月も続くので大腸カメラを受けたのに、『特に異常はありません』と言われた」——そうした経験をお持ちの方は少なくありません。実は、大腸カメラで粘膜の見た目が正常でも、症状の原因となる病気はいくつもあります。見た目だけでは分からず、組織を少し採取して顕微鏡で調べる検査(生検)ではじめて診断がつくものや、問診と血液・便の検査、経過から診断していくものがあります。
このページでは、大腸カメラで異常がない慢性の下痢について、代表的な原因である感染後の過敏性腸症候群(感染後IBS-D)、胆汁酸性下痢、顕微鏡的大腸炎、薬剤性の下痢、炎症性腸疾患の初期などを中心に、当院での考え方を解説します。
このページのポイント
大腸カメラで「見た目が正常」でも、生検(組織検査)で診断できる病気があります。代表が顕微鏡的大腸炎です。
お薬(PPI・鎮痛薬・一部の薬)、胆のうの手術後、食後すぐに起こる下痢 などは、原因を絞り込む大切な手がかりです。
慢性の下痢は「体質」で片づけず、鑑別(見分け)を丁寧に行うことで、治療できるものが多くあります。
大腸カメラで異常がない下痢では、何を考えるのか
下痢が続いていて大腸カメラで明らかな炎症や腫瘍がない場合、私たちは主に次のような病気を念頭に置いて診療します。それぞれ診断のしかたも治療も異なるため、「見分けること(鑑別)」が最も重要です。
考えられる主な原因 | 特徴・手がかり | 診断・治療の方向性 |
|---|---|---|
感染後IBS-D (感染後の過敏性腸症候群) | 胃腸炎(食あたり・感染性腸炎)をきっかけに、治った後も下痢や腹痛が続く | 問診と経過で診断。腸の動きや知覚過敏に対する治療 |
胆汁酸性下痢 | 胆のう摘出後や、食後の下痢が目立つ。朝や食後に強いことが多い | 経過・特徴から推定。胆汁酸を吸着する薬などが有効なことがある |
顕微鏡的大腸炎 | 中高年の女性に多い非血性の水様下痢。夜間にも出ることがある | 生検で診断。原因薬剤の中止が基本 |
薬剤性の下痢 | PPI・鎮痛薬(NSAIDs)・一部の薬の開始後に出現 | お薬手帳の確認。原因薬の中止・変更 |
炎症性腸疾患の初期など | 血便・体重減少・夜間症状・炎症反応の上昇を伴うことがある | 血液・便・内視鏡・生検で評価 |
SIBO(小腸内細菌増殖)ほか | 腹部の張り・ガス・下痢。背景に手術歴などがある場合に検討 | 症状・背景に応じて選択的に検討 |
表1 大腸カメラで異常がない慢性下痢で考える主な病気(症状・背景により優先順位は変わります)
これらは重なって存在することもあり、必ずしも一つに当てはまるわけではありません。だからこそ、症状の経過・お薬の内容・生活背景をふまえて全体像を把握することが、遠回りのようで最も確実な近道になります。
「見た目が正常」でも診断できる——生検の意味
大腸カメラは、腸の内側の粘膜を直接観察する検査です。しかし、炎症が粘膜の表面ではなく、その少し下の層で起きている病気では、見た目がほとんど正常に見えることがあります。その代表が、次に説明する顕微鏡的大腸炎です。
こうした病気は、粘膜をごく少量採取して顕微鏡で調べる「生検」を行ってはじめて診断できます。慢性の下痢でこれらの病気が疑われるときは、見た目に異常がなくても、複数の場所から生検を行うことが診断の決め手になります。
感染後IBS-D(感染後の過敏性腸症候群・下痢型)
Q. 胃腸炎が治ったのに、下痢や腹痛だけが続いています
細菌やウイルスによる急性の胃腸炎(食あたり・感染性腸炎)をきっかけに、感染そのものが治った後も、下痢や腹痛・お腹の不快感が続くことがあります。これを感染後過敏性腸症候群(post-infectious IBS:PI-IBS)と呼びます。多くは下痢が主体(下痢型・IBS-D)の経過をとります。
胃腸炎の患者さんを追跡した研究では、感染後にIBSを発症する頻度は報告により幅がありますが、感染していない人よりも明らかに高いことが分かっています。発症のリスクが高くなる要因として、若い方、女性、感染していた期間が長かったこと、不安や気分の落ち込みなどが知られています。また、原因となった菌の種類によってもリスクは変わります。
Q. なぜ感染が治ったのに症状が続くのですか
感染後IBSの方の腸粘膜では、見た目は正常でも、ごく軽い炎症(微小炎症)が続いていることが示されています。腸のリンパ球や肥満細胞といった細胞が増え、そこから出る物質が腸の動きや知覚に影響し、下痢や腹痛を起こすと考えられています。腸と脳が互いに影響し合う「脳腸相関」も関わり、ストレスで症状が強くなることが多いのも特徴です。
大腸カメラを行うことで、腸そのものの炎症(炎症性腸疾患など)による下痢なのか、感染後IBSのような機能的な下痢なのかを見分けることができることもありますが、診断は困難なことがあります。診断がつけば、腸の動きを整える薬などで対応していきます。
胆汁酸性下痢
Q. 食後や朝に、急に下痢をします。胆のうの手術も受けました
胆汁酸は、脂肪の消化を助けるために肝臓で作られ、通常は小腸の終わり(回腸)で大部分が再吸収されて再利用されます。ところが、回腸の切除後・機能低下、胆のう摘出後などで、再吸収しきれなかった胆汁酸が大腸に多く流れ込むと、大腸で水分の分泌と腸の動きが強まり、下痢を起こします。これが胆汁酸性下痢です。
胆のうを摘出してから下痢が続くようになった、といった場合に疑います。クローン病で小腸に病変がある方や、小腸を切除した後の下痢の原因としてもよく知られています。胆汁酸を吸着するお薬(コレスチラミンなど)が有効なことがあり、診断的に治療を試みることもあります。
顕微鏡的大腸炎(けんびきょうてきだいちょうえん)
Q. 大腸カメラは異常なし。でも水のような下痢が続きます
顕微鏡的大腸炎(microscopic colitis:MC)は、大腸カメラでは見た目がほぼ正常なのに、生検(顕微鏡の検査)で特徴的な所見が見つかる大腸炎です。名前のとおり「顕微鏡でしか分からない大腸炎」という意味で、血の混じらない、慢性の水のような下痢が主な症状です。夜間にも下痢が出ることがあり、腹痛や体重減少を伴うこともあります。
組織の所見によって、上皮のすぐ下に厚くなった線維の帯(膠原線維帯)がみられる膠原線維性大腸炎(CC)と、リンパ球が増えるリンパ球浸潤大腸炎(LC)に分けられます。
特徴として、中高年の女性に多いことが知られています。慢性の下痢で医療機関を受診した患者さんのうち、一定の割合が顕微鏡的大腸炎だったという報告もあり、けっしてまれな病気ではありません。症状が下痢型の過敏性腸症候群(IBS-D)とよく似ているため、見分けが重要です。とくに夜間の下痢や、下痢の強さのわりに体重減少が目立たない点は、鑑別の手がかりになります。
Q. どんな薬が原因になりますか
日本の顕微鏡的大腸炎は、お薬に関連して起こることが多いのが特徴です。とくにランソプラゾールなどのプロトンポンプ阻害薬(PPI・胃酸を抑える薬)や、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs・痛み止め)が代表的な原因として挙げられます。そのため、まずはお薬手帳や服用歴の確認が診断の第一歩になります。
比較的多い原因薬剤 | 頻度が比較的少ない原因薬剤 |
|---|---|
PPI(ランソプラゾール など) | SSRI(パロキセチン など) |
NSAIDs(アスピリン など・痛み止め) | カルバマゼピン/シンバスタチン |
H2受容体拮抗薬(胃薬) | ビスホスホネート系薬(骨の薬) |
チクロピジン/アカルボース | β遮断薬/ACE阻害薬 など |
表2 顕微鏡的大腸炎の原因となりうるお薬(Fărcaş RA ら 2022 ほかより作成)
自己判断で中止せず、必ず主治医にご相談ください。
Q. どうやって診断・治療しますか
大腸カメラで粘膜に明らかな異常がなくても、顕微鏡的大腸炎が疑われるときは、大腸の複数の場所(とくに上行結腸・横行結腸など)から生検を行います。直腸だけの生検では見逃すことがあるためです。治療は、原因と考えられるお薬があれば、それを中止・変更することが基本です。欧米では副腎皮質ステロイド(ブデソニド)が広く使われますが、日本では内服薬としての保険適用がないため、まずは被疑薬の中止と経過観察を行い、必要に応じて止痢薬などを併用します。
薬剤性の下痢
さまざまなお薬が下痢の原因になります。海外では700種類以上の薬剤が下痢と関連すると報告されており、有害事象のなかでも下痢は少なくありません。とくに次のような場合は、お薬との関連を確認します。
PPI・痛み止め(NSAIDs)・一部の抗うつ薬(SSRI)などを飲み始めてから下痢が出るようになった
抗菌薬(抗生物質)を使った後の下痢——薬剤性腸炎や、クロストリジオイデス・ディフィシル(C. difficile)感染 が関わることがあります
漢方薬(山梔子〈サンシシ〉を含むもの)の長期服用——まれに腸間膜静脈硬化症の原因になることがあります
多くのお薬による下痢は、原因薬を中止することで速やかに改善します。ただし自己判断での中止は危険な場合もあるため、必ず医師・薬剤師にご相談ください。抗菌薬使用後に強い下痢や血便が出た場合は、便の検査で原因を確認します。
炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)の初期など
潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患(IBD)は、進行すると大腸カメラで炎症が確認できますが、ごく初期や軽い時期には所見がはっきりしないこともあります。次のような「危険信号(アラームサイン)」がある場合は、より詳しい検査が必要です。
血便が続く/便に血が混じる
体重が意図せず減っている
夜間に目が覚めるほどの下痢・腹痛がある
発熱を伴う、血液検査で炎症反応や貧血がみられる
これらがあるときは、便中カルプロテクチンなどの便検査、血液検査、大腸カメラと生検を組み合わせて評価します。なお、すでにIBDと診断されている方でも、感染症の合併・お薬の影響・胆汁酸性下痢・術後の変化など、病気本来の活動性以外の原因で下痢が起こることがあり、これらを見分けて対応することが大切です。
SIBO(小腸内細菌増殖症)・そのほか
お腹の張り・ガス・下痢が目立つ方では、小腸内で細菌が増えすぎるSIBO(小腸内細菌増殖症)を、症状や背景(お腹の手術歴など)に応じて選択的に検討します。このほか、乳糖不耐症(乳製品でお腹をこわす)や、脂肪の消化吸収の問題による下痢なども、慢性下痢の原因として考慮します。これらは食事の内容との関係が手がかりになります。
受診の前に——問診で確認する主なこと
原因を絞り込むために、当院では次のような点をおうかがいします。あらかじめ整理しておいていただくと、診断がスムーズになります。
確認する項目 | なぜ大切か(関連する病気) |
|---|---|
きっかけの胃腸炎 | 感染後IBS-Dの手がかり |
胆のうの手術(胆嚢摘出後) | 胆汁酸性下痢の手がかり |
PPI(胃酸を抑える薬)の服用 | 顕微鏡的大腸炎・薬剤性下痢 |
NSAIDs(痛み止め)の服用 | 顕微鏡的大腸炎・薬剤性下痢 |
SSRI など内服薬・抗菌薬・漢方薬 | 薬剤性の下痢・薬剤性腸炎 |
夜間の下痢・血便・体重減少・発熱 | 顕微鏡的大腸炎・炎症性腸疾患の危険信号 |
表3 問診で確認する主な項目。お薬手帳をお持ちいただくと、原因薬の確認に役立ちます。
おわりに——「異常なし」で終わらせないために
大腸カメラで「異常なし」と言われても、慢性の下痢には、生検で分かる病気、問診と経過で見分ける病気、お薬が原因の病気など、治療につながる原因が隠れていることがあります。当院では、これまでの経過やお薬・生活背景を丁寧にうかがい、必要に応じて生検や便・血液の検査を組み合わせて、原因を見極めたうえで治療方針を立てます。長引く下痢でお困りの方は、どうぞご相談ください。
※本ページは一般的な医学情報の提供を目的としたものであり、個々の診断・治療に代わるものではありません。症状については医療機関にご相談ください。
参考文献・参考にしたガイドライン
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この記事の監修者

はしもと内科消化器内科クリニック
HASHIMOTO Gastroenterology and Intestinal Clinic
院長 橋本 宏明
医学博士(京都府立医科大学)
略 歴
2001年 愛媛大学医学部医学科 卒業
2007年 朝日大学付属村上記念病院
2010年 済生会吹田病院
2012年 京都府立医科大学附属病院
2014年 ベルランド総合病院 副部長
2020年 当クリニック開業
資 格
日本内科学会 総合内科専門医
日本消化器内視鏡学会 専門医
日本消化器病学会 専門医
日本肝臓学会 専門医
難病指定医(炎症性腸疾患)
緩和ケア研修会修了